Square バンキングの立ち上げ(デザインとコピーに関するストーリー)

2人のSquareクリエイティブディレクターが、クリエイティブで革新的なブランドイメージと伝統的で真面目な金融機関のバランスを模索した経験についてお話します。

7月にSquareは、小規模ビジネスの販売、預金、支出、借入れを1か所で支援することを目指した製品スイートである、Square バンキングを発表しました。さらなるビッグニュースとして、FDICから銀行設立免許が付与されました。同免許の付与は10年ぶりのことです。

申し上げるまでもなく、銀行の立ち上げは容易ではありません。商品の設計に加えて(それ自体はかなり大きな成果です)、立ち上げとプロモーションにまつわるクリエイティブの制作もあります。これには、ランディングページ、メール、立ち上げ/デモ用動画、ソーシャルメディア投稿などが含まれ、Square バンキングならではの個性に一役買っています。

指揮を執っているクリエイティブディレクターは、Mad(デザイン)とVickie(コピー)の2人。Madは 、Lyftや代理店での経験を活かしデジタルブランドの骨格を作ることに情熱を注いでいます。Vickieは、ジャーナリズム界で培ったスキルを駆使して、デジタルブランドのコンテンツやストーリーの制作をサポートしています。両者から話を聞くことができましたので、彼らの思いや、クリエイティブな戦略、立ち上げの舞台裏のプロセスについてお伝えしていきます。

Square バンキングの独自性とは?そして金融業界の他の企業とはどう違うのでしょうか?また、これをユーザーにどのように伝えているのでしょうか?

M:結局のところ、これは金融商品なのです。しかしブランドとビジュアルの面から、既成概念を打ち破るエネルギーを表現しながらも、金融商品に必要な信頼と真摯な態度とのバランスは保っていかなければなりません。私たちは小規模ビジネスオーナーはクリエイターであり起業家であると考えていますので、金融は真面目なトピックではありますが、ブランドとして同じクリエイティブなエネルギーと、小規模ビジネスのオーナーが体現する大胆な自信とを表現すべきだと思いました。金融は必ずしも無難でなくてもいいのです。

V:これは堅実な商品を提供するだけではなく、従来とは異なる語り口と異なる見せ方を用いることを意味します。また同時に、金融機関に求められるプロフェッショナルで信頼を寄せられるようなイメージも必要です。

バンキング、その商品、そして商品の利用方法を伝える語り口は、バンキング商品自体と同じくらい重要です。実際に商品を利用してもらう、そして詳細を理解してもらうには、人々に安心感を与えることが必要なのです。

M:私たちの目標は、商品について関心持ってもらうだけでなく、金融上の意思決定をより安心して下せるようにもなってもらうことです。そこでデザインからのアプローチとして、とかく説明文ばかりになりがちな金融ブランドの性質を巧みに取り入れています。細かい文字で埋め尽くすのは避けつつ、規約をコンテンツの一部に見えるようにしたり、文章をより口語的でわかりやすくしたりと趣向を凝らしています。

V:ビジュアルヒエラルキーについても言及しておくべきことがあると思います。デザインチームは、正しい情報を正しいサイズとタイミングで提示するという素晴らしい仕事をしてくれました。単純なことのようですが、ユーザーにはとても見やすくなっているのです。そして、馴染みは薄いけれども利用してみたいと思っている金融商品について、圧倒的な量の情報を読むという、尻込みしたくなるような状況を改善できていると思います。

M:大胆に、というのは、必ずしも奇をてらったり、意外性を狙うようなメッセージを提示したりすることではありません。私たちにとって大胆とは、製品スイートにゆるぎない自信があること、だからこそ不必要で意味が伝わらない業界用語をそぎ落とせるということを意味します。

クリエイティブについてアプローチする上で、シンプルさや使いやすさといったSquareの哲学から影響を受けましたか?その場合、どのような影響でしたか?

M:もちろんです。シンプルさや使いやすさといったSquareの哲学は、私たちが基盤として求めているエレガンスの1つの形です。製品レベルではバンキング商品の核となる原則であり、アイデアやレイアウトやストーリーテリングをどう実現するかというコンセプトレベルでは、中立的で現実に即し、過度に脚色しないという方針となっています。またシンプルさとは、美的感覚を意味するだけではなく、加盟店さまにとって最も重要なことを特定し、それに従い優先順位を付けることでもあると思っています。

Square バンキングの発表動画で、実際の加盟店さまをキャスティングした経緯などをお聞かせください。

V:実際の加盟店さまをキャスティングしようと、グループとしてかなり意図的に決断しました。台本からは現れてこないエネルギーや役者では再現できない瞬間などをお見せしたかったからです。

M:基本的に、どうなるかはわかっていませんでしたけどね(笑)。

V:特にセービングの動画では、撮りたい主なシーンやアクションのアイディアがいくつかあったのですが、ほとんどのケースで、その日ごとに撮影クルーが加盟店さまに柔軟に対応しました。彼らの日常を現実的に、正確に映し出したかったからです。作られたものを使うのではなく、本物のブランド利用者の生の声として、加盟店さまの姿を伝えることを目指しました。

M:金融商品は、話題として挙げにくいことが多いというか、事業オーナー同士で共有されることはあまりないと思います。今回、本物の加盟店さまにお金についての関係や体験を共有してもらったことで、努力を何回も重ねれば 、金融やお金に関する認識を少しずつ変えていくことができる、と実感しました。

バンキングの発表のときは、動画ばかりでなくウェブサイトやメールに多くのSquare加盟店さまが登場していました。何を主眼に事業体を選考しているのでしょうか?どういった内容をサクセスストーリーとして取り上げていますか?

M:正直なところ、ビジネスオーナーの方の誰もが語るべきストーリーをお持ちと思います。個人的なストーリーもあるかもしれません。選考のプロセスでは、やはりビジュアル面も考慮に入れているという実情はあります。自然体で生の声を感じられるストーリーを求めてはいますが、同時に見た目でも深い個性を感じさせてくれる店舗が理想的です。また1本の動画で2~3軒の店舗を紹介していますので、あまりちぐはぐな印象にならないようバランスを取るということも考慮しています。

V:もちろん、さまざまな業界、人種、ジェンダーなどを代表する店舗を選びたいのですが、幅広く理念や体験を取り上げたいとも思っています。ご紹介してきた加盟店さまは本当に多様で、自宅で猫や赤ちゃんも一緒になってファミリービジネスを運営しているBhangra Empireから、複数ロケーションに展開し小売店に製品を卸しているカリフォルニア州オークランドのRed Bay Coffeeのような、確固とした地盤を築いた店舗まで、バラエティーに富んでいます。

2020年は、多くのブランドが小規模ビジネスと協力しているシーンが見られましたが、トーンがやや感傷的だったように思います。加盟店さまの描写の仕方はどのように決めましたか?あえてこのトーンとは違う風にしてみましたか?

V:この動画を制作しているときに、起業家の悲しい姿や虐げられた姿、すなわち事業を所有・運営することの大変さなどといった苦労は描かない、と決めていました。ビジネスオーナーは、過去も現在も、常に機敏で非凡な才能を持つ人々です。そういった面を強調すべきだと考えました。

M:「感情」と「感傷的になること」は、それぞれ別です。視聴者には動画に共感してもらいたいのですが、必ずしも感傷的になる必要はありません。経済とコニュニティの両方に貢献している人々を、過剰に感情に訴えかけるのではなく、地に足のついたやり方で称えるべきです。

加盟店さまのストーリーを形にする上で、多くのパートナーの協力がありました。印象に残ったことや、このプロセスにまつわる話をお聞かせください。

M:ディレクターをお願いしたGeoff Levy(バンキング)とEric Wolfinger(セービング)は2人とも、小規模ビジネスや起業家たちとの場にとても慣れていました。

実際のプロセスでは、Squareのチームやディレクターと加盟店さまで何時間もオープンに話し合いました。お互いのビジョン、長所、期待などを理解することが全員にとって極めて重要ですから。

V:GeoffとEricの非常に素晴らしいところは、異なるバンキング商品を一たび理解した後の反応です。「わあ、すごく革新的だね」とそれぞれの商品が加盟店さまの日常に与える影響を即座に理解してくれました。これを目の当たりにしたのは本当にうれしい瞬間であり、ストーリーテリングのプロセスにおいて非常に重要でした。

また調査担当者がクリエイティブチームと直接話し合う機会があったのも、とても恵まれていたと思います。加盟店さまの調査とインタビューをしっかり堀り下げることができ、加盟店さまが何を求め、どのように語り、どのように感じているのか、多くのことを知ることができました。この調査は本当に貴重でした。調査によるしっかりとした基盤がなかったなら、きっと暗闇の中を手探りで進むようなことになっていたでしょう。