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コンテンツ負債

コンテンツ管理を後回しにすることで、ユーザーエクスペリエンスにはどのような影響が及ぶのでしょうか。

図書館で本を借りるとしましょう。手順はかんたん、場所を調べ、棚から本を見つけ、そして持ち帰るだけです。

本の返却も実にかんたんです。

ではここで、世界で最も整理が行き届いていない図書館を想像してみましょう。オンラインカタログを見ても、探している本が図書館にあるかどうかも、貸し出し中かどうかもわかりません。料理の本がホラーコーナーに、SF小説が自己啓発の棚にあります。著者名はアルファベット順に並ばず、図書分類という近代発祥の考えさえないようです。

残念なことに、多くの企業におけるコンテンツの管理方法は、フリーマーケットの古本販売に似ています。図書館のようにきっちりと整理整頓されていないのです。

負債につぐ負債が重荷に

「技術的な負債」がどのように生まれるのかを考えてみると、ソフトウェア開発者に行き着きます。何かを迅速に開発・構築するという作業はとかく断片的になり、大規模な概念実証も必要になるということに、彼ら自身はかなり早い段階で気づいていますが、この負債は、やがて雑然、混乱とした状態を招き、よくある問題が多数発生する原因ともなるのです。

同じことが、「コンテンツの負債」にも当てはまります。

コンテンツ負債にも、技術的負債にも、あるいは一般的な金銭的負債にも共通して言えることがあります。それは、一定期間を過ぎると、大きな足かせとなって重くのしかかり、今ある能力や可能性を最大限に活かせない状態に陥ってしまうということです。得てして負債はゆっくりと増え、そして突然急激に増大します。「あとで対応すればよい」と後回しにするのはかんたんですが、そうこうしている間に、手に負えない大問題に発展してしまうのです

どんな組織でも、ある程度のコンテンツ負債を抱えています。そこで今回は、Squareのリスク担当部署でコンテンツ負債がどのような影響を及ぼしているか、そして私たちがそれにどう対処しているかについてご紹介していきます。

成長への悪影響

皆さんもご存知のとおり、Squareは世界規模でビジネスを展開しています。しかし、グローバル展開には多大なエネルギー、計画、そして労力が伴います。費用対効果分析をはじめ、競合他社を意識した市場調査、資産獲得のためのマッピングなど、難解なビジネス用語が登場する作業が他にもたくさん必要になります。

しかし、ビジネスのグローバル展開に合わせて、既存のコンテンツにもグローバル展開が必要になるということはあまり注目されていません。そもそも、既存のコンテンツがどこにあるのか、そのすべてを実際に把握しているでしょうか。「何となくはわかるけど、はっきりとはわからない」というのが現状でしょう。

残念なことに、多くの企業におけるコンテンツの管理方法は、フリーマーケットの古本販売に似ています。図書館のようにきっちりと整理整頓されていません。

コンテンツを整理し、分類、アーカイブ化するという一連のプロセスは、成長を遂げるために欠かせません。しかし実際には、新しいコンテンツの方が注目度も高いため、その作成や公開が優先され、既存のコンテンツは後回しにされてしまいがちです。

よくある問題は、新しいコンテンツを制作する側が、ローカリゼーションに先立ってコンテンツを整理するために何が必要なのかを正確に把握していないということです。

大規模にグローバル展開している企業でこのような問題があるとどうなるでしょう。大きな混乱を招くことになるのではないでしょうか。

たとえば、グローバル展開で新規参入した地域のユーザーエクスペリエンス(UX)に、ばらつきが出てしまうおそれがあります。グローバル展開を行う際、すべてのコンテンツがどこにあるのかを調べるのは大変な作業です。しかも、すべて把握しているという確証は得られないのが実情です。こうしたことが重なると、誤ったメッセージをお客さまに伝える、不快にさせるメッセージを表示する、といったことが起こる可能性があります。ほかにも、重要なメッセージが違う言語で表示されてしまう、さらにはメッセージがまったく送信されない、という事態さえ起こりかねません。

またUXの観点から見れば、この状態は悪夢そのものです。顧客体験の改善方法を会議でいくら議論したところで、お客さまが理解できない別の言語でページが表示されてしまえば、「ないがしろにされている」という印象を与えかねません。UXを構築するうえで何としても避けたいのは、「ユーザーの存在が考慮されていない」とユーザー自身に感じさせてしまうことなのです。

**改善のための取り組み:** 私の担当部署では、コンテンツのデザインにより気を配り、これまで以上に戦略的なアプローチを採用するようにしています。さらに多くのUXプラクティショナーを採用し、より詳細な調査を行ったり、ユーザーにとっての課題を把握したりすることで、Square 加盟店が抱えている問題を解決し、よりスムーズな業務運営の実現につなげています。また、完了したプロセスを文書化して繰り返し用いるとともに、絶えず改善できるようにしています。

混乱したメッセージ

適切に作業を進めるには、メッセージの担当部署を決めておく必要があります。さまざまな部署が共同で管理するのではなく、1部署が管理するのです。そして可能であれば、ある程度コンテンツデザインに関与している部署にします。

成長に悪影響が出るのと同じように、コンテンツが整理されていないと、メッセージに混乱が生じます。 たとえば、1つの会社からメールが17件も同時に届いたとすればどうでしょう。ユーザーにとって実に不快な体験になるのではないでしょうか。

問題は、このような事態が発生していることを多くの企業が認識していないということです。

コンテンツ負債はさまざまな悪影響をもたらします。ただし、この問題は予測することも、数量化して測定・記録することも可能で、改善が期待できます。それなら、コンテンツ負債の解決は絶対に必要です。

メール、通知、SMS、バナーなど多くの連絡方法があるため、同じ社内のスタッフでさえ、新しい連絡手段を追加すると、これまでの方法とどのように併用していけばいいかわからなくなる場合があります。

あることが起こった際、通知を自動送信しなければならないとします。他の部署にはこのような状況に対応できるノウハウがあるかもしれませんし、既存の通知を活用して新しい状況に対応することも可能かもしれません。しかし、新しいコンテンツを至急作成しなければならないという状況に置かれると、このような可能性は概して無視されてしまいます。

**改善のための取り組み:** Squareでは、作業を行う際に全体を考慮するよう心がけています。リモートスタッフ、複数の部署・組織、世界各地のタイムゾーンなど複雑な条件が重なっているので、ともすればメッセージはいともかんたんに混乱してしまいます。そこで、さまざまなコンテンツがどのように関連しあっているかを、より詳しく理解できるよう努めています。ある部署が行っていることが、まったく別の部署に影響を及ぼすことがあるかもしれないからです。こうした影響や関連性がある場合は、連絡・相談し、連携しながら、コンテンツの混乱を未然に防ぐことを目指しています。

顧客の混乱と不満

当然ながら、一度に同じようなメッセージを大量に受け取ったとしたら、お客さまは不快になるでしょう。これはお客さまの混乱と不満につながります。UXプラクティショナーにとって、最大の失敗です(苦い教訓ともなりますが)。

理解できない言語でメッセージを送信することほど、お客さまに「ないがしろにされている」という印象を与えてしまう失敗はありません。

さまざまなビジネスの業務運営をサポートし、決済受付に関わるような事業なら、事態はいっそう深刻です。

コンテンツを作成する際は、いつ、なぜ、どんな方法で作成するのか、基本ルールを設定しておくことで、少しずつコンテンツ負債の解決に取り組むことができ、結果的にお客さまの満足度向上につながります。ただし、もっと大切なことがあります。それは、常にコンテンツを整理整頓しておくこと(または少なくとも、問題が発生してしまった場合にそれを解消すること)であり、それによってユーザーエクスペリエンスの悪化を未然に防ぐことができるのです。

**改善のための取り組み:** 何より、信頼の構築・維持に努めること。Square社内でコンテンツ負債の影響を最も受ける部署は、リスク担当部署とコンプライアンス担当部署です。支払い異議申し立て、詐欺被害、または意図せぬ利用規約違反が発生した場合、どちらかの部署のスタッフとやり取りをしていただくことになります。残念なことに、この一連のやりとりは望ましい体験ではないはずです。そこで「リスク」と「コンプライアンス」は一体となって、「セラーヘルス」という新しいチームを編成しました。このチームは、お客さまにとって不快な体験を共有・検討することで、より良い体験の創出に取り組みます。

時間の浪費と作業の複雑化

コンテンツを整理していなければ、結果的に膨大なコストが発生します。すでにあるコンテンツをまた新たに作成依頼したり、これまでに試した方法をまた最初からやり直したり。スタッフは新しいワークフローを学び、コンテンツ管理システム(CMS)を詳しく確認しなければならないかもしれません。すでにそのシステムは他のスタッフが調査済みで、廃止する可能性さえあるかもしれないというのに。

こうしたことすべてが膨大なコストの増加につながります。

人件費、顧客体験の悪化、機能過多のコンテンツ管理システム、そして何時間もの手作業。コンテンツ管理が不十分なことで膨大なコストがかかることは実に明白です。

しかしながら、最も高額な損失となるものは何でしょう?それは、お客さまの信頼を永遠に失ってしまうことです。

**改善のための取り組み:** コンテンツ負債やコンテンツの増大を減らしています。コンテンツの整理と維持、そして作成するコンテンツの量と長さの削減に今後取り組んでいく予定です。

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コンテンツの作成や編集、審査、管理を行う際、「後で対応します」という言葉をよく耳にするはずです。目前にはいつも緊急の問題があるもので、既存のコンテンツについて、どう対処するか、どこで使用されるか、誰が担当するか、といった問題の把握は後回しになりがちです。開発にリソースが必要なのはもちろん、新しいデザイナーの採用や、新しいプロジェクトマネージャーのトレーニングなど、優先度の高い作業は数多くあります。

しかし、コンテンツ負債による結果は惨憺たるものです。ただし、この問題は予測することも、数量化して測定・記録することも可能で、改善が期待できます。それなら、コンテンツ負債の解決は絶対に必要です。

そして先手を打ってこの問題を解決できれば、組織をよりスピーディーに前進させることができるのです。